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小詩集「レイン」

(雨台風)


どこからか
つよい雨粒おちてくる
風は少々ふいて
どこかにむかっていく
雨台風っていうんだね
「来歴をみずから飾る者は卑しい」ってさ
ぼくら くんずほぐれつぬれそぼち
ニセアカシアの木のしたの
眠りのようにふかい薮のかげに
あさく沈んだ


(雨一夜)


しとどふる雨の舗道を
ぬるぬる蛇の姿態ですべってくる
女のようなもの
黙契はやぶられた
誰かが名前を告げたのだ
ぼく自身さえ知らない最後の名前を
ぼくは斎戒沐浴し
ヘアには香水ふきかけ待っていよう
名づけられるよりもはやく
そいつの名を呼ぶために


(雨女神)


ぬれた肢体のかさぶたをはぎ
とげとげのある舌で
みどりの汁をなめとる
ぼくは犬だ
ひとつの季節のおわりに
雨とともにやってくる者へ
すべての矜持をなげうつ
ぼくは犬だ
雨の匂いのする薄皮をむくたび
うまれかわる女の前では


(雨言葉)


妻よ きみに逢えてよかった
子どもらよ きみたちに逢えてよかった
けれども柔らかい影のまま
過ごすことはできない
夭逝は未遂におわり
かんまんな幸福がつづいているが
このいまも何かを言わねばならぬ
すべてを与えられても まだ足りないものと
すべてを奪われても なお残されるものは
同じはずだから


(雨風祭)


ふりふりふりふりつづいて
土堤がやぶれ田畑はこわれ
なんにんもなんにんもしんだ 
祈祷師も血をはいてしんだが
いまわのきわに
いけにえの男女の名を一組告げた
その雨男と雨女は
村境の立木に縛りつけられ
ひひひひあぶりにされた 
次の日はまっさらに晴れたそうな


(雨痢禍 )


戦争や災害がはんらんして
死がいっぱいのきれいな画面
お茶の間は浸水し
広告塔といっしょに
ぼくたちの耳も目も
土砂におしつぶされ
なんだかぼくという個体も 
こんなもんを
かいてしまう濁流にのまれて
行方不明




    初出   詩集 「鬱曜日には花を刈って」 (1997年5月)

by puffin99rice | 2015-07-09 20:54