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(前編からつづく)



39番目の歌

どんなに長く はてしなく長く 求めても
身をこがし 言い争っても せいぜい苦い
果実くらいしか 得られないのだから せめて
豊かな葡萄の 酒をのんで過ごそう 愉快に


40番目の歌 

友人諸氏よ むかし私の再婚を祝って この家で
どんちゃん騒ぎをしたよね 何も産まない理性を
ベッドから追いたてて かわりに迎えたのが
葡萄の樹の 酒の娘だったからさ


41番目の歌 

「ある」と「ない」は公式と定規で
「上と下」はそれに頼らず明らかにできた
そんなふうに 万事に興味をもっていそしんだのに
その道に通じることはひとつもなかった 酒のほかには


42番目の歌 

最近のことだけれど 酒場の戸口から夕闇とともに
忍び寄ってくるものがあって 見ると天使みたいでさ
肩に土瓶をのせていてね 味わってみろと言うから
ごちになったら 正真正銘ぶどうの酒だったよ


43番目の歌

その絶対の論理で いさかい絶えない
あまたの宗派をも論破するのがワイン
鉛のような人生を一瞬で黄金に変える
腕っこきの錬金術師


44番目の歌

そしてまた酒は 勝利の大王
無敵のマームドのように 魔法の剣で
魂をむしばむ 異教の黒い軍団の 恐怖と悲嘆を
ことごとく打ち破り 蹴散らすのだ


45番目の歌 

賢者たちの言い争いには関わらないぞ
宇宙についての論争など知ったことか
ばか騒ぎの片隅に避難して おれたちを
からかう者があれば やりかえしてやる


46番目の歌 

内と外 四方八方 上と下 人生はもう
マジックシャドーショーとしか思えない
箱のなか 太陽に見立てた蝋燭の火のまわりを
わたしたちの幻影がめぐってきては去ってゆく


47番目の歌 

この酒も 杯にくちづける唇も
時間のはてに ぜんぶ無となる
ここにいま 生きていながら
人はすでに みんな空なのだ


48番目の歌 

川の岸に薔薇が咲いているいま 年老いた
このわたしと飲もう 紅のビンテージワインを
そのうちお迎えの天使がきて 最後の杯をすすめるときも
黙って飲むのだ ためらわずに


49番目の歌 

夜と昼をきざんだチェッカー盤上で
運命が人間たちを駒にして対局する
右へ左へと指しまわし 詰め上げては
ひとつひとつ 箱に仕舞いこんでゆく


50番目の歌 

ボールは打者のプレイのままに 右にも左にも
転がってゆく このフィールドに 投げいれられた
わたしらの行方は あの方が決められる
いっさいがっさい あの方が知っている


51番目の歌 

動きつづけさせ 終わったかと思えばもどってきて
指に宿って また書きつづけさせる 神のことばを
われらの信心と知恵に免じて 半行でも一語でも
取り消してほしいけれども 涙でも洗い流せない


52番目の歌

空と呼ばれる さかさに置かれた杯の下で
なんの救いもなく 虫のように這いまわり
死ぬだけの存在だけど あの空だって
ぼくらと同じさ あてもなく回っている


53番目の歌 

神は 人をつくった最初の土に
最後の収穫のための種をまいた
おわりの日の曙に読み上げられるべき審判は
そうとも 創世のはじめの朝に書かれたのだ


54番目の歌 

出生の星位にしたがって 神さまが
昴と木星を 燃える仔馬座のかなたへ
投げとばしたとき 塵と魂からできた
わたしという 運命は定められた


55番目の歌 

葡萄の木の触手に 絡めとられているから
禁欲主義者よ われに構うな おぬしが
解き得ない扉の鍵は ワインに浸された
わが身のなかでこそ つくられるかも


56番目の歌 #ルバイヤート私訳

愛に燃え上がろうと 怒りで身を滅ぼそうと
真実の光は 神殿の暗がりにはない
それよりも旅の宿で酒かっくらって
つかのまの輝きに酔いしれたほうがましというものさ


57番目の歌 

定められたわたしの道に 落とし穴と
罠をしかけたのは あなたなのだから
予定されたどおり はまったからといって
よもや それを罪として非難なさるまいな


58番目の歌 

人がみな罪で汚れているのは わるい土から
かれらをつくり エデンの園にへびを放った
あなたのせいなのだから あなたがゆるせば
人もあなたを ゆるすだろうに


59番目の歌(「Book of Pots」1) 

ラマダンの終わりに ようやく新月が昇らんとする
ある夕方のことです あの陶工じいさんの店に
わたしはひとり ぽつねんと立っておりました
土のやからどもに いくえにもとり囲まれて

(注)ラマダンはイスラム教徒の義務のひとつで断食を行う月の名。


60番目の歌(「Book of Pots」2) 

さて こんなことを言うのは奇異に思われるかもしれませんが
土のやからのなかには 口がきけるものと もの言わぬものがあり
とつぜん がまんできずに そのひとつが口火をきったのです
「いったいどっちが陶工で どっちが土の器なんだい?」


61番目の歌(「Book of Pots」3) 

すると べつの声がしました
「つぶしてもとにもどせる ふつうの土から
 形よくつくられたんだ おれたち
 むだではなかった ということさ」


62番目の歌(「Book of Pots」4) 

また ほかの声がしました
「気むずかしいやつだって 喜んで使った器を
 砕いたりはしまい むかついたからといって
 愛情こめた産物を 乱暴にこわしたりはしまい」


63番目の歌(「Book of Pots」5) 

これにはしばらく だれもこたえなかったのですが
ようやく つくりの悪い土の瓶が口をひらきました
「いびつな顔だと みんながおれをあざける
 じいさんの手が あのとき震えたからだと」


64番目の歌 (「Book of Pots」6) 

さらに ちがう声がしました「世間さまはよく酒場のバーテンの噂をする
人を試し探るような陰険なやつだと まるでその顔が
地獄の煙で煤けているかのように悪く言うけど
じっさいは 慈悲ぶかいお方さ 心配するなよ」

(注)神様は慈悲ぶかいお方(コーラン)


65番目の歌(「Book of Pots」7) 

深いため息をついて 新たな声がしました
「長いこと放置されたので からからに乾いてしまったよ
 あのなつかしい葡萄の酒を たっぷり注いでくれたまえ
 そしたら また元気になれると思うのだけれどね」


66番目の歌(「Book of Pots」終了) 

そんなふうに 次からつぎに話していると
なかのひとつが 窓から待望の新月をみつけました
ラマダンが明けたのでした かれらは身をゆすりあって叫びました
「おい みんな聞こえるだろ 人夫が酒樽を運ぶ音が!」


67番目の歌 

ああ 死にゆくわたしのためにワインを
いのちつきたら それでからだを洗い
葡萄の葉の経帷子を まきつけて
どこか麗しの庭のすみに 埋めてくれ


68番目の歌 

そうしたら わたしの埋められたあたりに
ワインのかおりがただよい たちこめて
かたわらを行く者は たとえ敬虔な信徒でも
その誘惑にまけて 不覚にも立ちどまるだろう


69番目の歌 

わたしは長年月 ワインという名の
偶像を愛し 世間の信用をそこなった
栄誉を 浅いさかずきの底で溺死させ
たかが歌のために 名声を売りとばした


70番目の歌 

こんどこそ こんどこそはと なんど誓ったことか
けれども いつもいつも しらふではなかったのだ
まいとし 春がめぐりくるたび 薔薇の花のとげが
着古した後悔の衣を ずたぼろにひき裂くのだった


71番目の歌 

ワインにおぼれた不信人者として わたしは
名誉のローブをはぎとられた でも思うのだが
商人は酒を売ったかわりに 何を得るのだろう
何を買っても せいぜい酒の半分の価値しかないのに


72番目の歌 

ああ 春は薔薇とともにほろびる
あまやかな青春の書物もとざされる
あの一瞬の光と影は すばやい鳥の
飛翔のように どこかへとび去った


73番目の歌 

恋人よ きみとぼくとで 運命と手をむすび
このかなしい世のなかの しくみをつかもう
そしていったんは それをばらばらにして
ふたりの思いどおりの 世界につくりなおそう


74番目の歌

欠けるを知らない よろこびの月
あなたは今夜も また天空に昇る
これからさき いくたび庭を照らして
わたしをさがすのだろうか むなしく


おわりの歌 

そして よろこびの月が かがやく足どり軽く
宴の庭の 綺羅星のごとき客たちをもてなして
わたしがいつも座った場所にやってきたら
その席に ふせて置くがよい からの杯を



RUBAIYAT OF OMAR KIHAYYAM(Translated by FitzGerald)The First Edition






by puffin99rice | 2016-05-01 18:34