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夜の歌

ぼくは、しなやかな闇のなかの

みずみずしい、ひとかかえの矜恃を

星座をうかべた、水にひたして

ことばではなく、燃える肉を

ずっとむこうの、壁のあたりで食べて

ぼくの背中は、ひりひり夕焼け


たとえば愛を喰いちらして、闇を汚したときに

かろやかな羞恥を、とめどもなく吐いて

闇のしたの暗黒を穢したときに、いくすじかの

にせものの涙ながして、暗黒はぬれて

その底をしみて、たぶん暗黒のどんぞこの

さらに底は明るい、明るいのだ


ぼくが、ひとにぎりの自我のかすを

そこにすてて、からっぽになってはじめて

ほんものの影を、もつことができる気がして

それは、傷つくと血がふきでる影で、ひっそりと

ぼくにつきしたがい、ぼくのかわりに暴力や

ことばの毒をうけるので、いつも倒れたままなのだ


ぼくは、こわれやすいぼくを、かたい殻にかこって

いたずらに愚痴をこぼし、けれどもけっして

みずからの所有にあるものを、手ばなさない場所を

出るまいと、あらゆる詭弁の罠をしかけ、そんな

ぼくは、ぼくの怯懦の罪を知っていて、それを

放っておく多重の罪を、撃つための旅の、野に

火をはなち、火は、ぼくを燃やし、ぼくは

火と燃えて、ぼくが野に倒れたら、ぼくの

影が立ち上がって、ほんとうのぼくを

生きはじめる気がして、影の、ぼくが

火をくぐり、火をくぐり、ぐりぐりぬけて

ぼくを、ぬけると


夜空にぽっかり、月が


はしばみ色にそまった愛憎の、手の先の

指の、もっと先の、糸のようなものを

水に浸け、周囲に青い炎を呼び込みながら

しとやかな裏側の、その、もっとも

やわらかい繊維を剥がしていた






初出 現代詩フォーラム 2004-02-28



by puffin99rice | 2017-09-26 22:17