小山正孝「倒さの草」について

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草むらに私たちは沈んだ

草たちは城壁のやうに私たちをくるんだ

倒さの草たちのそこの空に白い雲が浮んでゐる

青ざめたほほと細いあなたの髪の毛と

草の根方を辿つてゐる蟻と蜘蛛と

しめつた黒ずんだ土と・・・・・

暑い夏の日だつた

あなたとはもう縁もゆかりもないけれど

今も思ふ

純粋とはあれなんだ

起きあがつた時のあなたの笑顔とすずしい風と

美しいくちびるの色






   恋人と草むらに倒れこんで逆さの角度から見上げる空と雲。私にも覚えがある青春のスナップショット。

   これもやはり1962年に脱稿された「戦後の詩」からの引用で、編者の安西 均は「追憶的なすずしい恋歌」と評しています。

   初々しい少年(17歳)だった私はいつもこの本を持ちあるいて、好きな詩にチェックをいれたり、感想を書きこんだりしていました。

 この詩には鉛筆で◎印を付けています。

   ところで私はしばらくの間、っていうよりも、ン十年後にたまたま読み返すことになった先日まで、題名の「倒さの草」を、「タオサの草」とデタラメに読んでいました(そんな日本語はない)

   倒れた二人と倒された草のイメージが強くて、しかも当時はからっきし漢字読めなかったんですよね。

 「サカサの草」ですな、もちろん。ふがいない読者ですいませんでした、小山さん。



●小山正孝(1916~2002)

東京生まれ。学生のとき立原道造と交遊。終刊近い「四季」の編集にも参加した。生粋の抒情詩人の系譜。86歳で亡くなった。


初出   現代詩フォーラム(2003年11月8日)











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by puffin99rice | 2017-11-28 15:55 | エッセイ | Trackback | Comments(0)

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